専門家としてだけでなく、ご自身もご家族で雄勝の海や
モリウミアスを訪れてくださっている
東京大学大学院農学生命科学研究科の魚病学研究室、
伊藤直樹教授にお話を聞きました。

先生のご専門について。貝について研究するようになったきっかけは?
「魚の養殖はどうしても狭いスペースで育てるため高密度になり、感染症が発生します。多分、1970年頃から増えはじめたのではないでしょうか。私はそういった魚介類の感染症の被害を防ぐための研究をしており、特にホタテや牡蠣やアワビといった貝類の感染症が専門になります。学生時代、年の半分くらいは瀬戸内海にある岡山県の水産試験場で研究をさせてもらい、博士号を取った後はアメリカで2年ほど研究を行いました。
2006年からは東北大学に籍を置いてホタテや牡蠣の研究をしていました。東北大学に在籍中、東日本大震災が起こりました。今でもよく覚えているのですが、当日は大学のフィールドセンターがある女川に行く予定だったんです。ですが震災の数日前に起きた津波で網などが絡まってしまい、現地の方が忙しいという連絡があって、女川に行く予定が中止になりました。それがなければあの日、女川に行っていたと思います。
その後、2014年に東京大学へ移り、変わらずに貝類の感染症の研究をしています。具体的には、貝の病気が広まることをどうやったら防ぐことができるか、その病気が起きないような養殖方法はないか、逆にどういう水温だったり環境だったりすると病気が起きるのか、また起きないのか、そのようなことをずっと研究しています。」
三陸の海は、どのような海なのでしょうか?魚種や養殖についてのお話を。
「三陸は皆さんご存知のように親潮と黒潮の影響によって、世界中でも魚の種類や数がとても多いところです。外海に開いたビーチのような場所では波が強く当たってしまうため養殖には向いていませんが、三陸沿岸はリアス式海岸なので、外海から守られた小さな湾が多く、さらに山が近くて里もあったりで、養殖には非常に適した場所ですよね。水温が低いので、貝類や海藻、ギンザケの養殖には本来とてもいい場所だと思います。」
先生が仙台や女川にいらっしゃった時代と比べて、最近の海の変化は?
「東北大学にいた頃は宮城の水温が高いと言う話は出ていなかったと思うので、はっきりと意識はしていませんでした。ですが、2、3年前に岩手県沿岸の方に行った時、ホタテの生産者さんから水温が30℃を超えることがあるという話を聞き、大変驚きました。東北大学にいた頃には想像もしなかったことで、三陸の海の状態は本当に変わってきているのだと思います。
私の専門分野ではありませんが、海水温の上昇は、温暖化や潮流の変化などが複合的にからまって起きているようです。ですので、三陸沿岸の海水温上昇も、そのメカニズムは十分にわかっていないのではないでしょうか。
水温上昇の影響は場所によって違うようです。例えば赤道直下の国々で感じる水温上昇と北極ではだいぶ違うようですし。三陸沿岸の場合、水温がだいぶ上昇しているようですので、この先、ホタテ養殖は厳しくなっていく可能性が高いのではないでしょうか。また、宮城ではホタテ養殖に使う稚貝を北海道から持ってきているのですが、北海道で稚貝そのものが取れなくなっているというような話も聞きます。そうすると、宮城で使う分の稚貝が手に入りにくくなってしまうこともあるかもしれません。明るい話じゃなくてすみません。」
こども達には、変化していく海をどのように感じてほしいですか?
「東北大学にいた頃は宮城の水温が高いと言う話は出ていなかったと思うので、はっきりと意識はしていませんでした。ですが、2、3年前に岩手県沿岸の方に行った時、ホタテの生産者さんから水温が30℃を超えることがあるという話を聞き、大変驚きました。東北大学にいた頃には想像もしなかったことで、三陸の海の状態は本当に変わってきているのだと思います。
「海洋に与える影響が少ないと言われている貝や海藻の養殖ですら、やはり自然に依存しています。ですので、海からのお裾分けを食料としてヒトは生きているわけです。ですが、現在、その海に大きな変化が起きています。
人類の力でこの変化を止めたり元に戻すことは非常に難しく、恐らくこれからも続くのだと思います。こども達にはこういった海の変化を感じつつ、その中でも、食料に依存しなければならないヒトという生き物として、どうやって食料を確保、処理しながら食べていくのか、一緒に考えていってもらいたいと思います。
幸い、海は変化しても魚が全くいなくなるわけではありません。ですので、まずは、やっぱり獲れるものを無駄なく食べて利用することが大事だと感じてほしいですね。」
最後にモリウミアスファームの新しい取り組みについて、一言お願いします。
「人類の未来を担うこども達だからこそ、まずは食べ物と自然に対する感謝の機会を与える場所にしてほしいですね。獲れたものを無駄なく食べて、どんどん変わる世の中に適応していってほしいと思います。
それと、雄勝で海水温と漁獲量の関係を調べる活動に携わる中で、海の色々な変化は水温が上がったからと簡単に結びづけている情報によく出会いました。ですが、実はそんな簡単なことではないんですよね。なんとなく関係しそうな地球温暖化と海水温上昇ですら、どのように結びつくのかは、完全に理解されていないようです。
海のことを例に挙げましたが、色々な情報が溢れているこの世の中で、こども達には結論を急がず、ニュートラルな姿勢で混沌としていることを楽しんでほしい。また、色々なことが複雑に関わりあっていることや、分からないこともまだまだいっぱいあるということも知ってほしいと思います。まあ、これは、学生を見ていて、いつも思っていることですが。
是非、モリウミアスファームの新しい取り組みを通じて、こども達がこんなことを感じてくれるといいですね。